台湾・凍頂 再訪
昨年の11月中旬、凍頂烏龍茶の冬茶、打ち合わせのため、台湾南投県鹿谷郷の作り手さんを改めて訪問してきました。
2012年の冬はなかなか気温が下がらず、私たちが訪れた11月中旬も暑さを感じるような気温で冬茶の摘み取りは凍頂の中でも一部でしか行われていませんでした。鹿谷郷の町も出来たばかりの冬茶を販売しているのは観光客向けのみといった感じで、嵐の前の静けさのような、静かさの中に熱気を保っているような不思議な雰囲気に包まれていました。
この年は天候に恵まれず、凍頂ではありませんが、同じ南投県の渓頭では気温が下がらない上に雨が多く、高山茶を作っている作り手さんは冬茶の製造を見送ったりと、お茶にとっては厳しい年でした。
私たちがお世話になっている作り手さんは一般的な「冬茶」と呼ばれる時期のものよりもずっと気温が下がった、遅い時期に摘み取り、製茶を行います。作り手さんによっては「冬片」と呼ばれる時期のお茶ですが、この作り手さんは「春茶」と「冬茶」のみ。気温がしっかり下がって、茶樹がベストなタイミングになったら作るというシンプルな信念で冬茶を作っています。
ただし、リスクも大きく、気温が十分に下がる時期まで茶摘みを待っていると予想外の降霜や降雪などで冬茶の製造が全くできないということもあります。以前、温暖な気候である凍頂でも予想外の降雪があり、その年の冬茶が殆どできないということがありました。作り手さんにとっては冬茶の製造ができない、つまり冬場の収入が全くないということに繋がり、死活問題にもなってしまいます。そのため、最近は以前は秋茶と呼ばれていたような時期に、早め早めに冬茶として茶摘を行うように変化してきているようです。(前述の渓頭の作り手さんはそういった意味では本当に断腸の思いで冬茶の製造を断念されたのだと思います。とても真面目に、真剣にお茶を作る方で、こちらは改めてご紹介させていただければと思っています。)
私たちが訪れたこの時期もそんな時期で、周囲の作り手さんたちは茶摘みのタイミングを計っていた時期でしたが、この作り手さんは「うちはこの分だと12月だからね。まだまだ先。」とのんびりと構えていました・・・周囲の作り手さんは明日、茶摘みを始めるかどうかとピリピリしているというのに、この作り手さんのところだけは至って普通の雰囲気。何とも不思議な感じです。
この作り手さんは凍頂に大陸から持ち込まれた茶樹を受け取って以来、代々製茶を続けている家系で、私たちの訪問に合わせて高齢の先代まで出迎えてくださいました。普段は息子さんに任せている先代ですが、今も要人向けの特別なお茶の製茶や出来上がったお茶の最終チェックは先代が必ず確認しているそうです。といっても、息子さんも私たちよりもずっと年上のベテランの作り手さんです。まだまだ任せておけないということなのでしょうか?とても頑固な職人気質の先代です。
凍頂烏龍茶を等級別や製茶年別にテイスティングさせていただきながら、お茶作りについて、これから作る冬茶や美味しい淹れ方などを教えていただきました。
この作り手さんは製茶技術はもちろんのこと、焙煎技術が非常に高く、一般的な凍頂烏龍茶よりもずっと水分を少なく仕上げることができます。普通はそこまで水分を少なくしてしまうと味わいに影響が出てしまうのですが、この作り手さんのものは逆に味わいが深く、年月を重ねて楽しむことが可能になります。この時にも製造年別にテイスティングさせていただきましたが、10年近く経過したものの方が味わいが深くて柔らかい美味しさになっています。「老茶」とは別ですが、入手した人が適切に保管さえしていれば何年も楽しめるように作られています。中には何年の春茶が一番好みというのもでてきて、とても良い経験をさせていただきました。
既に当店で凍頂烏龍茶をお求めになっている方は是非、湿度と高温を避けて保存していただき、時間の経過と共に変化する美味しさを楽しんでいただければと思います。その際、冷蔵庫では保管しないでください。高温にならない場所で保管していただければ常温保存で大丈夫です。
写真の茶壷はこの作り手さんの宝物である顧景舟大師の茶壷です。話が弾んで、特別に出してきて見せていただきました。
顧景舟というのは茶壷作家の名前で、紫砂の人間国宝の様な方です。現代の紫砂作家の中ではこの方を越える作家はいないと言われ、作品は安くても数百万円、高いものは億を越える金額がつけられます。
そんな素晴らしい茶壷を実際に見せていただきました。流石に迫力を感じる作品で、言葉に出来ないような品があり、素晴らしい茶壷でした。写真が上手く撮れていないのが残念ですが・・・
こちらは凍頂の茶畑です。この作り手さんの茶畑ではありませんが、雰囲気が伝われば。
茶畑の中に檳榔(ビンロウ)の椰子の木があるのが特徴的です。この景色を見ると凍頂に来たという実感が湧きます。
2012年の冬は気候が難しく、一時は冬茶の製造を断念することも考えていた程だったそうです。12月に入ってから、ようやく量は少ないものの、納得できる品質の冬茶を作ることができました。他の作り手がとっくに冬茶の摘み取りを終えるころまで充分に待ってから作られたこの冬茶は数が少ないものの、非常に良い出来の冬茶になりました。
この作り手の凍頂烏龍茶は醗酵が強く、伝統的な龍眼の炭による火入れもしっかり行うため、実質的な賞味期限がないどころか、年月を経た方がより柔らかく美味しくなります。この冬茶も本当に美味しいのは、あと数カ月後、今年の6月以降位ですが、味わいの変化も楽しめるお茶としてご紹介させていただいています。
2012年の春茶です。もうすぐ今年の春茶も登場するような時期ですが、鈴茶堂でご紹介する凍頂烏龍茶の中で一番の飲み頃はこの春茶です。柔らかく深い味わいと清らかな品のある花の香りは、この作り手の凍頂烏龍茶ならではのものです。
今からがこのお茶の最も美味しい時期です。
上質な凍頂烏龍茶を是非お試しください。
4月20日に中国四川省雅安市で発生した大地震ですが、当店がお世話になっている蒙頂山の作り手さんは全員無事が確認できました。
一番被害の酷い地域からさほど離れていない場所ですので、相当に揺れが激しかったようです。建物の倒壊などはあったようですが、人に被害はないとのことです。
ご心配いただいたみなさま、ありがとうございます。
まだ情報があまり入ってきていない状態ですが、相当に大きな災害であったと思われます。今もニュースで目にする雅安市やその周辺の状況を目にして、愕然とする思いでおります。被災された方のご無事と、どうか1日も早く安心して過ごすことができるよう、祈らずにいられません。出来ることから、何かお手伝いができたらと思っています。
今年も鈴茶堂では蒙頂山の新茶をご用意しております。既に日本へは到着済です。
通関・検疫が完了次第、ご紹介させていただきます。
とても真面目に丁寧に作られている美味しい新茶です。
どうぞよろしくお願いいたします。
#写真は雅安市雨城区にある雅安廊橋で、雅安市のシンボルです。被害が少ないことを祈ります。
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